【ドラマ】漱石悶々~夏目漱石最後の恋 京都祇園の二十九日間~

年末に放送されたNHK-BSプレミアムのドラマ『漱石悶々』をようやく最後まで見終えました。放送が終わった後に途中までは見ていたのですが、そのあとなんやかんやで最後まで見れず、すっかり遅くなってしまって。

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『漱石悶々
~夏目漱石最後の恋 京都祇園の二十九日間~』


2016年12月10日 NHK-BSプレミアム 19:30~21:00

出演 豊川悦司宮沢りえ・村上新悟 ほか

2016年は夏目漱石の没後100年ということで、ドラマやドキュメンタリーが特にNHKでいくつか放送されました。そのうちの1本がこのスペシャルドラマだったかと思います。脚本は藤本有紀さん。藤本さんといえば…私にとってはダントツで『ちりとてちん』『平清盛』ですね。『ちかえもん』では向田邦子賞を受賞されたそうですが、このドラマは残念ながら未見で惜しいことをしました。藤本さん脚本はほぼ私好みなので、今回の『漱石悶々』も間違いないだろうと思ってました。

そして見終えての感想ですが・・・やっぱりすごく面白かった。約90分のドラマで全体的にストーリーの流れはゆったりしているのですが、それでも会話のテンポがとても心地よく絶妙で気が付いたら終わってたって感じ。やはり藤本さんの脚本は綿密に計算されたように展開していくので見応えがあるなぁと改めて思いました。

ドラマ全体について

このドラマは夏目漱石が49歳で没する前年に京都で29日間滞在した時のお話をベースに描かれてます。漱石は4回ほど京都へ行っているそうですが、この年が一番長く滞在したそうです。胃潰瘍の悪化と神経衰弱に悩まされていた漱石が静養を兼ねて環境を変える意味で京都へ訪れたときのこと。

旅館に呼んだ茶屋の女将・多佳と出会ってすぐに急速に彼女に惹かれてしまう漱石。この時漱石48歳、多佳さんは36歳だったとか。そんなある日、漱石は多佳と「晴れたら北の天神さんに一緒に梅の花を見に行きましょう」と約束をします。この約束は多佳さんの方が先に言いだしたことなのですが、晴れても一向に多佳からの連絡が来ない。待ちきれずに思い切って茶屋に電話をしてみたら、彼女は別の若いご贔屓と宇治へ出かけてしまっていると聞いて大ショック!

この約束破りの出来事がきっかけで漱石はますます妄想を膨らませ悶々としていき、結局最後は静養どころか胃潰瘍を悪化させて東京へ戻ることになってしまいます。

漱石は多佳と出会ってから悶々続き。本人にとっては一大事なことではありますが、見ている方からするとなんだかクスっと笑っちゃう可愛さがある。このあたりの展開が藤本脚本は巧いなぁと思いました。

「梅の花」事件のエピソードは特に面白かったですね。「晴れたらお多佳さんと二人きりで梅!」と心の中で悶々としながら何枚も梅の花を描いてしまう漱石のシーンなんかはまるで子供のようw。そしてフラれたショックから『意味もなく』京都見物に走り回るっていうのも面白かった。人力車の車夫役の六平さんがめっちゃいい味出してましたww。淡々としているようで漱石の心の揺れ動きを見事に表現していてマンガのような面白味のある場面でした。

漱石が悶々とする大きな理由の一つが多佳を取り巻く男性の存在。若い実業家に山荘の名前を付けてほしいと頼まれ「チンチラデンキ、皿もてこ、汁飲ましょ」とわざと妙な名前を押し付ける”妄想”を展開するシーンとかはインパクトありましたねww。それから最大のライバル岡本橘仙が、漱石の多佳への悶々とした想いを察知してわざと『風流ぬす人』という多佳さんの書いた本を見えるところに置いたシーンも印象的です。そこには橘仙と多佳の親しげな様子がつらつらと書いてあるもんだから、漱石の悶々はピークに達してスネてしまうわけでw。

もういちいち行動や心理が子供っぽくてかわいい漱石。だけどその気持ちがよく分かってしまうんだよねぇ、みたいな。見ていて思わず漱石に肩入れしてしまう面白さがありました。

あと印象的だったのが、妻の鏡子の存在。漱石に憎まれ口を叩いて冷たい態度をとっているように見えるんだけど、京都まで心配して駆けつけたり、観光で神社に行っては夫の回復を願うかのように一生懸命祈ってる。出番はあまり多くなかったけど、秋山菜津子さんのただ怖いだけじゃない奥さんのお芝居が光ってました。

夏目漱石を演じた豊川悦司さんが、思いのほか漱石の雰囲気にすごくマッチしていてとてもよかったです。特に多佳に翻弄されて喜んだり落ち込んだりスネたりといった人間的で可愛い一面をさりげなく、印象的に演じている姿が最高でした。私、『ナイトヘッド』の時からトヨエツさんのファンなんですよね~、実は。

多佳役の宮沢りえさんも妖艶でいながらふわっとした存在感がとてもよかったです。手玉に取るつもりじゃないのに、結局漱石を悶々とさせる行動を取ってしまう切なさみたいなものが見え隠れしていたのが印象的でした。宮沢さんは本当にこういう艶っぽい役が似合うようになったと思います。多佳は結局、漱石に惹かれてたんですかね。

村上新悟さんについて

で、このドラマに、村上新悟さんが出ていまして。放送前のトークショーの時に「ちょっとしか出てないんですけど」なんて笑ってましたが、いやいや、けっこう良い役で登場されていたと思いますよ笑う。そんな村上さんについてちょっと振り返ってみたいと思います。

村上さんが演じたのは、華道家の西川一草亭。このドラマの語り部である林遣都くんが演じる津田青楓のお兄さん役です。

西川一草亭はドラマではあまり漱石と一緒のシーンがないのですが、実際のところはかなり親しくしていたようです。華道家と同時にお茶に関してもかなり精通していて、志賀直哉らとともに文化サロンを開いていたこともあるとか。なんと、本名は「源治郎」だそうですよ。漢字は違えど読み方が…!これも因縁ですかねぇ。

グリーンの着物とメガネ姿がやけに似合ってました。おっとり、はんなり、落ち着いた感じ。兼続役で身に着けた姿勢の良さはさすがでしたね。良いところの出だっていうのは雰囲気で伝わってきました。実際の一草亭も実直な性格だったことから漱石に気に入られていたそうですから、村上さん的にはすごく合ってる役なのかなと思いました。

青楓が読む漱石からの手紙にいちいちツッコミ入れてるシーンは面白かったです。京都に来るのか来ないのかはっきりしないような内容に最後は「結局、来はんのか来はらへんのか、どっちや~」っていうねw。その京都弁の言い方がなんだかインパクトがあって印象的でした。

漱石の京都観光に同行しているときの一草亭さんは、のほほんとしながら後ろをついて行ったり一緒にお茶してはんなりしてたり・・・なんか見ていて和んだ(笑)。

かと思えば、旅館に到着した時に漱石付きのお梅さんに対して「せっかくの京都なのにこれではあんまり色気がないのでは」とシレっと言い放っちゃう(笑)。梅さんに失礼だろっww。でもそれを受けて青楓が多佳を呼ぶことを提案。つまりは大きなきっかけを与える役割を担ってました。多佳さんが登場してから漱石さんが悶々とし始めますからねw。何気に村上さん、ナイスアシスト的役柄じゃないかと思った次第(ファンの色眼鏡的ではありますがw)

そのあと、多佳さんと漱石がダジャレ合戦を始めたときの「え?」って固まってた顔がなんか面白かったなw。基本的に表情は兼続と同じくほとんど変わらないんだけど、ちょっとした感情がふっと浮かんできたような感じで印象的でした。

華道家であると同時にお茶もたしなむ人だってことがちょっとしたワンシーンで表現されていたのも嬉しかったですね。ここのシーンは短かったけど、村上さん的にはかなり気を遣って演じたんじゃないかなと思いました。

で、食事をし終わった漱石に「あの人はシャレも上手ですけど俳句もなかなかのもんです」と漱石の心に一石を投じる一言を放つ一草亭さん。多佳の詠んだ俳句を低いええ声で淡々と読み上げてる姿には色気も感じられてなかなか素敵でした。

一番面白かったのは、梅の花を漱石が一心不乱に描き続けるシーンでの一草亭さんでしたね。

え!?漱石さん、何枚梅の絵描いてんの!??的にビビってる一草亭さんの表情が面白かったww。ここはなんかマンガみたいな場面でしたね。ちなみに一草亭さんが描いていたのは椿っぽいけどなんだったのかな。

最後に登場したのが漱石の大ファンだという芸鼓さんを呼んで座敷で盛り上がるシーン。超ご機嫌の漱石先生でしたが、体の心配もあるから早く帰ろうと多佳が気を遣います。でもなかなか帰りたくない芸鼓さんたちを見かね、一草亭さんが

「お多佳さんが舞うてしまいにしたらどうです?」

とまたまたきっかけになるような一言を発します。戸惑いながらも舞を披露する多佳を見た漱石は悶々としてしまい、とうとう限界を超えて倒れてしまうっていうね。独り寝の寂しさを表現した踊りなんか見せられたら、そりゃ漱石先生も妄想の限界超えちゃうだろうみたいなw。

こうして振り返ってみると、たしかに出番は多くなかったけどストーリーの動きのきっかけを与える一言を放つシーンがあったりしてなかなかに美味しい役どころだった思います。これまでの村上さんの出演したドラマって、ストーリー上ではあまり関わりがなかったり下手すると役名すらないものもあったりしたので・・・そう考えるとこのドラマはすごく貴重だし転機になる作品でもあるのかなって感じました。

本当の一草亭さんはもしかしたらもっと表情豊かで、華や茶に関して創造的な才能を発揮するオーラのある人だったのかもしれませんが、このドラマの中では徹底して抑えて前に出ない人物として存在していました。前に出ずにさりげなくアシストを出すみたいな、そんな役だったかなという印象。でもそれって、すごく難しいと思いますよ。主役級を引き立たせるために、高貴な雰囲気を出しつつ引いた立場で存在するという難役を村上さんは頑張って演じられたんじゃないかなと。村上さんファンではない人から見たら存在感という点では劣っていたかもしれないと思いますが、このドラマ的にはそれでよかったのかもしれません。

個人的に、藤本作品に村上さんが出演したってことも嬉しかったです。これが縁となって次の藤本作品にも呼んでもらえたらいいなぁと思いました。

次のドラマではもう少し前に出る村上新悟の芝居が見てみたいな。でも、どんな役でも村上さんの血となり汗となっていくんだと思います。色んな役を積み重ねてますます素敵な役者さんになっていくのを見守っていくのが今後の楽しみです。