【映画】13年『書くことの重さ 作家・佐藤泰志』

近頃、佐藤泰志の書いた小説がポツポツと映画化されています。個人的にこの作家さんのことを知らなかったのですが、綾野剛くんが主演し賞も獲得した「そこのみにて光り輝く」の原作者だと知ってようやく繋がりました。
その佐藤泰志についてのドキュメント映画があったことを知ったのは村上新悟さんのファンになってから。ドキュメントドラマの部分で主演されていたと聞き興味を持っていたところ、佐藤作品映画化記念特集でCS放送されたのを見ることができました。

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2013年 『書くことの重さ 作家・佐藤泰志』

監督・稲塚秀孝
ドキュメンタリードラマ出演・村上新悟

この映画は佐藤泰志の生い立ちからその死までを関係者の証言を交え追っていくドキュメント作品。4章構成となっていますが、佐藤のドキュメントドラマが出てくるのは1章と2章のみでした。つまり、村上さんが出てくるのは2章まででだいたい1時間弱くらいの時間にちょこちょこ挟まってくる感じ。一番多く時間を割いていたのは、当時の佐藤を知る人へのインタビュー映像でした
個人的に人間のドキュメント系作品は好きで映画のみならずテレビなどでもよく見るほうなのですが、この映画はこれまで見てきたドキュメント作品とはちょっと違うなと感じました。佐藤泰志は割かし最近の作家なので映像なども残っているため映画にも本人が登場してきたりするんですけど…冒頭でサラッと程度しか出てきません。さらに村上さんが演じる佐藤が出てくるドラマ部門もぶつ切り状態で(苦笑)、インタビュー映像や資料写真などの合間合間にポツポツ入り込んでくる程度。なので…

ぶっちゃけ、私が期待していたようなドキュメント作品ではなくてがっかりしたというのが本音です

何しろ当時佐藤と関わった人たちのインタビューがとにかく多い。インタビューが入ることはいいんですが、この映画はそれをそのまま佐藤の人生として見せようとしている。たしかに当時を知る人の話は重いんだけど、そればかりだと佐藤泰志という人のドラマが色濃く感じることができないんですよ。

「書くことの重さ」

というタイトルを銘打っているからには、彼がどれだけの苦悩を抱えながら必死に原稿用紙に向かっていたのかという部分をもっと見せてほしかったんですよね。淡々とした証言とちょっとしたナレーションだけでは、佐藤泰志を知らない初心者の私からすれば彼の感情がほとんど伝わってこなかったんです。
もう一つ不満に思ったのが、佐藤の最期。これが実に曖昧で…ドラマとしても出てこないし、死の直前に会ったという人たちのインタビューのみで片づけられてしまっている節がある。佐藤がなぜどんな想いで自らの命を絶ってしまったのか…彼個人の想いが映画の中に感じられなかった。

そういう意味では、このドキュメント映画は、見る人を選ぶのかなと思ってしまいました。文学的過ぎるというか…。まぁそれが佐藤泰志らしい作品と言われればそうなのかもしれないけど、でもやっぱりもっとドキュメントらしいベタな作りで見せてくれてもよかったんじゃないかとも思うわけです。

個人的に良かったと思う点は村上さん以外には…「NORIN TEN」で権次郎を熱演してた無名塾の松崎さんがナレーションしてたってことかな。無名塾からは他にも芥川賞選考委員の作家役で何人か出演されているそうですが、どの方も見た目や雰囲気のクオリティが非常に高い。遠藤周作や開高健や大江健三郎といった有名作家役の皆さんは特に印象深いです。さすが無名塾だなと思いました。

以下、村上さん登場のドキュメントドラマ部分についての考察です。

前述したとおり、村上さんは「佐藤泰志」役として第1章と第2章に登場します。これだけというのが非常にもったいない…。佐藤泰志の人生をそのまま村上新悟さんに最後まで演じてほしかったです。そんな欲が出てしまうこの映画。

第一章

作品「きみの鳥はうたえる」が芥川賞に選ばれるかどうかをドキドキしながら待つというエピソードが中心。佐藤の母親役で加藤登紀子さんが出演されているのが何気に贅沢。


記者が見つめる中電話がかかってきますが、結果は落選。ガッカリしつつも淡々と電話を切ります。佐藤を演じる村上さん、眼鏡が当時のものなのかとても大きく、初めて見たときはちょっとその風貌にビックリしましたw。


皆が帰って行った後、母親と二人きりになるシーンがとても印象的でした。表に感情を出さないまでも膝を抱え賞を取れなかったことに落胆を隠せなかった息子を温かく見守る母の図がなんだか泣けました

この章では村上さんによる佐藤の小説「きみの鳥はうたえる」の朗読がちょいちょい出てくるのですが、これがホントに素敵!村上さんは声だけの役者じゃないとは思っているんですが、こうして改めて朗読を聞いてみると実に心地よいのです静かで穏やかで…なんかヒーリング効果があるって感じ。

第二章

なんと、高校生の佐藤@村上新悟が登場!!


高校生役をやっている子たちはリアルでその年齢に近そうな…たぶんエキストラ的なキャストさんが多かったので、一番最初に高校生に交じっている村上さんを見たときは、ひとりちょっと浪人生風の学生さんが紛れ込んでいる…と軽く衝撃を受けました、さすがにwww。これは非常に難易度高かったのではないかと。
だけど、何度か出てくる学生時代の佐藤のシーンを見ているとだんだん「高校生」っぽく思えてくるから不思議。大勢のリアルっぽい学生さんたちに交じるとさすがにちょっと年齢差を感じますが、一人でいるシーンとかは寡黙でちょっととっつきにくそうな高校生って見えるんですよね。村上さん、この高校生役を演じるために当時けっこう体重を落とされたみたいなことをどこかで話されていたようですし…かなり努力されたのではないでしょうか。

ちなみに、高校時代のデートエピソードシーンも出てきます。さらりとしか触れられてませんでしたが、彼女と一緒にロープウェイ乗ったりけっこう楽しそうにしてる村上@佐藤の姿。村上さんの恋愛めいた場面って見たことなかったので新鮮だなって思っちゃいましたw。いつかそんな役もガッツリ見てみたい。

個人的には詰襟学生服を着てタバコを吸いながら本を読む村上@佐藤泰志の姿がなんだか文学青年っぽくて素敵だなぁと思いました。ただ、未成年の喫煙は法律で禁止されていますから決して真似をしないように
佐藤は大人しそうに見えてけっこうヤンチャもあったそうで停学にもなったらしいんですけど、そこの部分のドラマは出てこないので、佐藤は終始、物静かで考えが読めないような学生としか写りません。ドラマ部分としてもそんな感じで終始淡々としていて佐藤の人となりの輪郭が見える創りになってなかったのが残念です。村上さんだったら佐藤を色んな側面から綿密に演じてくれそうなのに…勿体ない、ホント…。


佐藤がカレーを完食してふぅ~っと一息ついたところのシーンはなんだか可愛かったw。これだけ見るとほんと、高校生に見えるよ、新悟くん。

第2章の最後では高校の先生に励まされて書くことに目覚め原稿用紙に向かう佐藤の姿が。目のアップは凄味があり印象的でした。
ここから佐藤が「書くことの重さ」を実感していくドラマを村上さんがずっと演じてくれればどんなに良かっただろうか…とやっぱり思ってしまう。

ファンとしては、たぶんこれが一番過去作の中で村上新悟を堪能できる作品だと思うんですけど…正直、映画としてみるとこのドキュメントドラマは蛇足的に思えてしまうんですよねぇ…。証言と写真だけでは分かりづらい部分を補足説明的にドラマとして挿入した、みたいな形。しかもそのドラマもプロの役者とそうでない出演者が混じったりしてるっぽいのでどうもバランスが悪いしストーリー性も薄い。他のレビューで再現ドラマは微妙だったという感想を目にしましたが、そう言いたくなる気持ちも残念ながらわかる(苦笑)。
村上新悟さんのファンとしてはこのドラマ部分についてあまりマイナスなこと書きたくなかったんですが…うーん、すごくモヤっとしてしまったもので…申し訳ない。

この作品見て一番強烈に思ったのは、もっとちゃんとした「ドラマ」のなかで村上さんのお芝居を見たいってことでした。ちょいちょい出てくるこの作品での村上さんは佐藤の雰囲気を繊細に掴んでお芝居されてるのすごく分かるんです。だけど、プロの役者との絡みが少なかったというのもあってか作品の中でその良さが伝わりづらくなっていたように思うんです。
もっと、村上新悟という素晴らしい役者を生かせるような作品に出てほしいなと切に思いました。